夜空の日記
『夜空の日記』といっても天体観測をする日記ではありません。 漫画や小説(ラノベ)やアニメについて色々書いたり書かなかったり。
みくるちゃん観察日記(2006.5.20)
みたび過去編である。

今回はバニーガール事変から数日後の休日の話だ。

5月半ばという実に微妙な時期に転校生がきたという、3日で風化しそうな出来事があったりと、その転校生がSOS団に入団させられたりと、まぁ、それなりに何かがあった気もするが、みくるちゃんの話とは無関係なので、全編カットである。



ある、休日のことだった。

SOS団初の校外活動として、不思議探索なる会合がもうけられた。
時折忘れそうになるのだが、SOS団の活動目的は、宇宙人未来人異世界人超能力者を見つけ出して一緒に遊ぶことである。
そういうわけでこの日は、そういった不思議なものを捜すための日なのだ。

このとき俺ははじめてみくるちゃんの私服を見ることとなる。
初・朝比奈みくるちゃんの私服は、白いノースリーブワンピースに水色のカーディガンを羽織っているという姿だった。
ふわふわの髪の毛はバレッタで後ろの髪をまとめており(個人的には、こういう髪型大好きである。より具体的に言うなら、「ハヤテのごとく!」のマリアさんみたいなのが究極)、非常にかわいらしかった。

作戦会議と称して駅近くの喫茶店に入ると、涼宮は六本のくじを出してきた。
俺たちはそれぞれくじを引き、二人ずつ三組のグループに分かれた。
結果、涼宮&長門、みくるちゃん&キョン、そして俺&古泉、というグループ編成となった。
何が悲しくて、それほど親しくもない男子転校生と、せっかくの休日を潰して過ごさねばならぬのだ。

「これはこれは。同性同士、交流を深めましょう」

と、古泉は甘いマスク全開で言ってきた。
その一方でキョンは涼宮に、「これデートじゃないのよ。真面目にやるのよ」とか釘を刺されていた。
都内をノープランに練り歩くだけのこの企画の、どこに真面目にやる要素があるというのだろうか。

喫茶店を出て古泉との不思議探索に突入した後は……なんというか描写するのも面倒くさくなるくらい、ごく普通に男子高校生二人が、駄弁りながら町をふらついているだけの数時間である。
まぁ、俺と古泉の間には大した趣味の共通点があるわけでもないのだが、古泉は話したがりな性格なのか、こちらが漏らしたキーワードからドンドン新しい話題を持ち出してくるため、会話の種に困ることはなかった。
適当にゲームセンターや書店や商店街をうろついているうちに、古泉の携帯電話に、涼宮から着信が入る。
一旦集まれ、と団長は仰せであった。

もう一度ハンバーガーショップで集合すると、涼宮はまたグループ分けをしようと言い出した。

今度はくじ引きの結果、涼宮&古泉、キョン&長門、そして俺とみくるちゃんというグループ編成となった。
涼宮はキョンと長門を見比べて下唇を突き出して微妙に唸っていたのだが、まぁ、それはどうでもいい。勝手にしてくれ。

みくるちゃんと二人きりで、疑似デートみたいな感じで街を歩けるのは嬉しいことなのだが、いかんせん相手が美人すぎた。
元々コミュニケーション能力の低い俺は(仲よければたくさん喋れるが、あまり知らない人が相手だとほとんど喋れない。没コミュ)、どうしたらいいものか悩んだ。

やがて俺とみくるちゃんは、公園へと足を向ける。
どちらからともなくベンチに腰を据えて、しばらく無言の時が過ぎた。

……。
……いやいや、無言で鳩を観察している場合ではない。
何か話さねばとは思うのだが、しかしなかなか話題が口から出てこない。
年頃の女の子が好む話題ってなんだ? ジャニーズか? ジャニーズなのか?

やがてこの気まずい沈黙を破ったのは、みくるちゃんの方だった。

「……やっと落ち着けましたね」

なるほど、そんな表現もできるわけか。
確かに俺の方は、朝っぱらから大して親しくもないイケメンと町をブラブラするだけという謎の行軍をしてきたわけで、それに比べると今は幾分か平穏な時間ともいえる。
いや、絶世の美少女と一緒にいるという時点で、内心は平穏とは無縁の心境ではあるのだが。

「そうですね……」

気の利いていないことこの上ない返事だった。
自分で自分を殴りたくなったね、いやマジで。

ありがたいことにみくるちゃんは、俺のへたれた返事を気にすることもなく、言葉を続けてくれる。

「あたし、こういうふうにしていることってあんまりないから、なんか新鮮です」

こういうふうにしていること、ってなんだろう。
……若い男女がベンチでボケっとしてるだけというへたれた行為のことか?
俺がまた無意味に落ち込みそうになったところで、みくるちゃんは慌ててフォローを入れてくる。

「あ、こういうふうっていうのは、男の人と二人っきりで一緒にいることね」

そう告げたみくるちゃんは、パッと頬を朱に染めた。
これが「自分で口にしておいてやっとこの状況を再確認して、改めて恥ずかしくなってしまった」とかの朱に染めた頬だったら、萌えるんだがなあ。たぶん違うんだろうなあ。
俺は足元に寄ってきた、餌もないのに地面をコツコツつついている鳩を見つつ、口を開く。

「男の人と二人っきりって、ちょっと前まではキョンと一緒にいたんじゃないですか?」
「あ、うん。そういえばそうだね」

そういえば、て。
ちなみに俺はキョンの本名を知らない。今更気まずすぎて聞く気にもなれないから、どうしようかなって思ってる。

「でも……うん。やっぱり緊張しちゃいます。あたし、男の人と付き合ったこととかってないから」
「ないんですか?」

それは意外なことだった。
あの涼宮でさえ(それでも十分美人だ)、今でこそフリーではあるものの、中学時代にはとっかえひっかえするように男と付き合っていたと聞く。
まぁ、どの男も涼宮のお眼鏡にかなわずすぐに別れたと聞くが……とにかくあの高圧的そうな女でさえ、中学時代から数多くの告白を受けていたというのだ。
それなのに、この小柄童顔美少女朝比奈みくるちゃんがただの一度も愛の告白を受けていなかったとは到底考えられない。受けただろう、歯の浮くような告白を、何度も受けたはずだ。
しかしそのどれにもOKを出さないほど……それほどまでに彼女に認められるためのハードルは高いというのか?

……というような主旨のことをみくるちゃんにたどたどしく伝えると、彼女は苦笑して否定した。

「違うの。別にあたしが求めてるのが高いから、っていうわけじゃないの。むしろ、あたしなんかじゃ釣り合わないですってくらいかっこいい人が告白してきたこともありましたから」

みくるちゃんレベルで釣り合わないくらいかっこいい人って、地球上に存在するのだろうか。

「でも、ダメなんです」
「ダメ、ですか」
「はい。あの……」

みくるちゃんは俺と同じように、都会にいるにしては珍しく警戒心がまるでなさそうな――普段からよく餌付けされているんだろう――鳩を見つつ、それを言葉にした。

「あたし……自信がないんです」
「自信がない、ですか?」

まぁ、涼宮みたいなのに比べたら、自信なさげには、確かに見えるが。

「あたしには、男の人と付き合って、相手の人を幻滅させない自信がありません」

俺は顔を上げて、みくるちゃんの横顔を見た。
しかしそこからは何も彼女の意思を読み取ることができなかった。

「あたしは、たくさんの人から好意を寄せられるほどに、できた人間じゃないんです。本当はぐうたらで、ちんちくりんで、おっちょこちょいな、ダメダメな子なんです」

俺たちの話を聞いていて気まずくなったわけではないだろうが、鳩がバサバサと羽音を立てていきなり飛び立った。
驚いた俺は身を仰け反らせたが、みくるちゃんは微動だにしない。

「男の人は、みんな、あたしのことを可愛いって言って近づいてくるんです。そういえば、涼宮さんもそうでしたよね」

いや、俺はみくるちゃんのSOS団入団の経緯を知らないからなあ……。

「あたしはたぶんそういう人が傍にいたら、精一杯相手の求める“朝比奈みくる”を演じると思います。でも……もしその人と付き合ったりすることになったら。長く一緒にいて、そして気を許してしまったら……きっとあたしはボロを出してしまうような気がするんです。そうなれば相手はきっと幻滅して、あたしから離れていってしまう。そうするとあたしは傷つきます。……あぁ、そうですね。わかりました。あたしは傷つくのが嫌だから、男の人と付き合わない、のかもしれません……」

一息にそこまで言うと、グッと喉をつまらせる。

「……結局、自分のことしか考えてない、弱くてずるい子なんですよ。あたしは……」

そう言ったみくるちゃんが、なんだか今すぐ泣き出してしまいそうなくらいに危うい表情をしていて。
何にもすがれないとか。
自分は本当に最低だとか。
そういうことを、心の底から思ってることが伝わってきてしまったから。

そのみくるちゃんの顔を、見てしまったから。
年上にはとても見えない童顔の先輩が哀しみに暮れている顔を、見てしまったから。

ただ、それだけ。
それだけで、俺の胸はギュッと強烈に締め付けられてしまうくらい苦しくなってしまって。

俺は気づくと、

「朝比奈、さん」

言っていた。

「他の誰が朝比奈さんに幻滅して離れていこうとも……、俺は決して離れたりせず、あなたの傍にいます。だから――」

だから?

あっ、と気づいて俺は言葉を止めた。
みくるちゃんも呆けたように口を半開きにして、こっちを見ている。
そして俺の言った言葉の意味が飲み込めてきたのか、徐々に顔が赤くなっていく。
みくるちゃんは、ワタワタ慌てながら、

「え、そ、それってそのあの……!」
「ええ、い、やあのそのえと……!」

俺は言いながら気づいた。
みくるちゃんも、聞きながら気づいたんだろう。

これじゃあ、まるで。

愛の告白

みたいじゃないか……!

「お、おおおお落ち着きましょう朝比奈さん!」
「う、うんうん! 落ち着いていますよ、星野くんっ!」
「ええとですね! 今言ったことはその、別に嘘とかその場かぎりのでまかせとかじゃなくて、本心です!」
「あ、ああ! そうなんだ!」
「だけどそのえっとこれは『一生あなたの味方でいます』的な意味でございまして、ええと言いたいこと伝わりますかね!?」
「え!? う、うん……! つまりその……下心的なことはないよってことかな!?」
「そ、そうですそうです!」
「あ、あはははは! び、びっくりしちゃいましたー!」
「「あははははー!」」

……なんだこれ。
まるで中学生みたいじゃないか。
高校一年生と二年生の男女が、真っ昼間の公園で何をやってるんだか……。
特にみくるちゃん。
あなた、数多の男から告白されたとか、自分で言ってたんでしょうが……。
それともこのやり取りだけは、他にはない特別な意味でもあったというのだろうか?

とにもかくにも、俺の中で“朝比奈みくる”という女性を強烈に意識することになるきっかけは、こんなもんであった。

ちなみにこの後、みくるちゃんの、

「先にキョンくんには話していたんだけれど……あなたにも話しておきますね。 わたしはこの時代の人間ではありません。もっと、未来から来ました」

というぶっ飛んだ話により、今回の件はすっかり俺の頭の中から押し出されてしまうことになるのだった。





(続かない)
スポンサーサイト




コメント
▼この記事へのコメント<(あれば表示)

■ コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL

▼この記事へのトラックバック(あれば表示)