夜空の日記
『夜空の日記』といっても天体観測をする日記ではありません。 漫画や小説(ラノベ)やアニメについて色々書いたり書かなかったり。
朝比奈ミツルの冒険 Episode 00(1)
彼の名は朝比奈ミツル。
見た目はごく普通の童顔な美青年である。
しかしその正体は、未来からやってきた、戦うウエイトレスなのである。

……いやいやちょっと待ってくれという方々からの声が聞こえてきそうではあるが、ここにはあえて目を瞑ってもらいたい。
でなければ話が進まないからである。
何も好き好んで進めたい話ではないにしろ、話が進まなければ話も終わらないわけであり、そうなれば無為な時間を長々過ごすことになるのだ。
そんなのは嫌だろう? 安心してくれ、あたしだって嫌だ。

とにかく朝比奈ミツルという童顔な美青年は、未来からやってきた戦うウエイトレスである。
“美青年”であり“彼”である以上男であることには間違いないが、戦うウエイトレスなのだ。

そんなミツルの日常は、商店街でのアルバイトが大半である。
ところがミツルのしている仕事はウエイトレスではない。
なぜ自らの得意分野と推測されるウエイトレスという職をかなぐり捨てたのかはわからないが、彼の行なっているアルバイトは、商店街のお店の客引きである。
まるでポン引きのような感じではあるが、働いている店はもっぱら八百屋やら肉屋やらである。問題ない。
ちなみにこの仕事をする際の衣装はギャルソンである。ウエイトレスどこいった?

「今日は産地直送の白菜がお安くて、えと、みずみずしくて、とっても美味しいでえす!」

童顔な美青年が八百屋の店先で白菜を宣伝するという謎過ぎる絵面ではあるが、店の主な購買層である主婦の皆々様にはどうやらご好評らしい。
そりゃああたしだってミツルのギャルソン姿は、はっきり言ってごちそうさまだ。
そんなのが店先で声を張り上げてる店で白菜を買うと言われたら、それはまた別の話だけれどね。

「ミツルくん、今日も精が出るね」
「は、はいっ! お仕事ですから!」

白菜を手にとって微妙にカメラ目線のおばさんの言葉に、ミツルは笑顔で応えた。

ミツルの販売促進活動のお陰か、白菜はあっという間に……むしろ何かしらの作為的なものを感じるほどの驚異的なスピードで売り切れた。
というか白菜だけ買って帰る人の多かったこと。
この人らの今晩の献立が気になるところだね。

白菜が売り切れたところで仕事を終えたミツルは、店主からお給料をもらい、次なるバイト先である肉屋へと向かっていくのであった。

さて。
そんな日常を送る朝比奈ミツルであるが、彼が未来からやってきた戦うウエイトレスなのだという設定を忘れてはならない。
朝比奈ミツルがわざわざ未来からやってきた理由は、とある少女の監視任務なのである。

その少女の名は、古泉イツキといった。
笑顔というよりかは微笑みの似合う、ごく普通の女子高生である。
が、実は超能力者なのだというから困ったもんだ。
しかし彼女自身は自らが超能力者であるということに気づいておらず、平々凡々な日常を送っているのだそうだ。一生そうしてろ。

とにかく自らの異能に気づいていないお間抜けな女子高生イツキを監視すべく、ミツルはわざわざ未来から送り込まれてきたらしい。ご苦労なことです。
ミツルは、商店街を能天気そうな微笑を浮かべて歩くイツキの姿をそっと物影から見つめている。どうでもいいが、肉屋のバイトはどうしたんですかミツルさん。

一方で、イツキへ熱視線を送る者は、ミツル以外にもいた。
それは真っ黒なマントに真っ黒なシルクハットという、およそ商店街では浮きまくる出で立ちをした、長門ユウキという男であった。
ひたすら無表情にイツキへ視線を向ける姿は、怪しすぎて逆にストーカーにすら見えない。
そんな彼の正体は宇宙人であるのだそうだ。もう、何でもいいんだな。



朝比奈ミツルと長門ユウキの対決は、序盤の早い段階で勃発することとなる。
とはいえそこに至るまでの過程のいっさいがっさいをすっ飛ばしての戦闘シーンである。
ミツルは戦うウエイトレスらしく、ミニスカの可愛らしいウエイトレスのコスチュームを身にまとっていた。
知らなければ女に見える。
相対するユウキは、先ほどイツキを観察していたときと同じ、真っ黒なマントにシルクハット姿である。手にはステッキを持っていた。怪しさマックスで、計器を降りきっている。

ミツルはオートマチックの拳銃を両手に握りしめ、ユウキへと向けていた。
意を決するようにうなずいたミツルは、両方の拳銃をしっちゃかめっちゃかにぶっぱなす。
狙いも何もあったもんじゃなく、放たれた弾丸のほとんどは検討違いの方向へとすっ飛んでいった。
たまたまユウキへと向かっていった弾丸も、彼が軽く動かしたステッキで簡単に弾かれてしまう。
ちなみに拳銃を人に向けて撃つのは危ないので、絶対に真似しないでくれ。
あれは撃たれる側が長門だったからできた芸当だ。

しばらく待つと、ミツルの拳銃は弾切れを起こしたらしく、何も吐き出さなくなった。

「くぅ~」

と悔しそうに言うミツルだったが、どこかしら安堵の感情も滲み出ていた。
このシーンに関しては、怪我人が出なくてよかったと思うよ。

「こうなったら、奥の手です! これでもくらええっ!」

ミツルは弾切れの拳銃を地面に落とし、雨乞いの儀式かと見紛うような躍りを披露する。もしかすると何かしらのポーズを決めていたのかもしれない。
そうしてミツルはVの字に開いた左手の指を、目の横に添えた。

「みっみっ、ミツルビーム!」

ミツルがそう唱えた瞬間、その瞳から必殺のビームが飛び出てきた。
とんでもない威力を保持したミツルビームは、その直線上に存在するあらゆる有機物を焼き尽くさん勢いで放出されたが、それを阻止する影があった。
長門ユウキである。

「えっ? えっ? な、長門く……」

ミツルの抗議も聞くことなく、ユウキはミツルを押し倒した。
そのままバタバタと暴れるミツルをマウントポジションで押さえ付ける。
美少年が美少年を押し倒している、ある意味垂涎モノのシーンであるにも関わらずまったくそそられないのは、あまりにも緊迫しすぎた空気が原因なのかもしれないね。

「……カットカット! おい、ユウキ、何してんだ? そんなの予定にねーぞ!」

と、男子生徒の叫ぶ声を聞きながら、物語は一旦中断し、主演男優二人による大森電器店CMへと突入した。



CM明け。
ミツルはトボトボと商店街を歩いている。
戦いに敗れたことがショックだったのか、暗い顔をしてうつむいている。

「ミツルビームが通じないなんて……」

そう呟いたミツルは、ギャルソン衣装だった。
どうやら戦闘衣装がウエイトレスで、普段着がギャルソンのようである。

一方その頃、麗しいウエイトレスが自分を守ってくれているなどとは露知らず今日も平凡な日常を送っていたイツキの元に、ユウキが現れた。
ユウキの肩には三毛猫が乗っているが、バランスが悪いのかオタオタしている。

「あなたは何者ですか?」

お前はブロードウェイの女優か、と言いたくなるような大袈裟な身ぶりを伴って、イツキは言った。
どこの平凡な女子高生が、「あなたは何者ですか」と訊ねる際に、首を傾げて両腕を広げるというのだ。
対するユウキは、そんな不自然極まりないイツキの動きを気にすることもなく、淡々と口を開く。

「私は、魔法を使う宇宙人」
「そうですか」
「そう」
「わかりました」

おい、いくらなんでも会話がスムーズすぎるだろう。
見知らぬ相手にいきなり「私は宇宙人」とか電波なことを言われたら、あたしだったら速攻で逃げる。

「あたしに何の用です?」
「あなたにはある特殊な能力があるため、私はそれを狙っている」
「迷惑だと言ったら?」
「強引な手段を使ってでも、手に入れる」
「強引な手段とは?」
「こうするのだ」

ユウキは手にしていたステッキを持ち上げて、イツキへと向ける。
するとその尖端から、可視光線が飛び出した。

「あ、あぶなあい!」

しかし光線がイツキに当たる前に、何者かが彼女を横から突き飛ばした。
一体いつからそこにいたのか、朝比奈ミツルであった。
ミツルはイツキに覆い被さるようにして、地面に転がる。
イツキめ、うらやま……じゃない、朝比奈さんに迷惑をかけるんじゃない。

ミツルはキッと背後を振り返り、ユウキを睨んだ。迫力はない。

「きみの思い通りにはさせません!」

ユウキは軽くうなずくと、ゆったりとした足取りで画面からフェードアウトしていった。
それを確認したミツルは、やっとイツキの上から退いた。

「き、きみことは、ぼ、僕が守りますから……!」

そう言い残して、ミツルはさっさといずこへと走っていってしまう。
そして後に残されたイツキは、ミツルの走り去った方を見つめつつ、

「あの方は、一体……?」

と。
そうして画面は白い雲の浮かぶ空へとパンした。



その次のシーンが、早くもミツルとユウキの戦い第二戦なのだというのだから、落ち着かないストーリー構成だ。
またもやここに至るまでの過程が全カットなのは、もしや笑いどころなのかね。

今度の戦いの舞台は、湖畔の際だった。

「あの人に近づくのは、や、や、やめてください! 悪い宇宙人の長門ユウキさぁん!」
「君こそ彼女から離れて、自らの存在する時代へと戻るがいい。私は彼女を決してあきらめない」

魅惑の重低音で淡々と語るユウキだが、今日は肩には猫を連れていない。
その代わりに、背後には三人の人間を従えていた。
どうやらユウキに操られているらしい人間たちは、男が一人で女が二人だ。

ミツルはその中の一人を知っているらしく、顔色を変えた。

「つっ、つっ、鶴屋くんっ。まさか君まで……! 正気に戻ってくださぁい」
「そんな格好しているみつるに正気に戻れなんて言われてもなあ!」

明らかに素の反応を見せた鶴屋さんだったが、すぐに半眼になり、口角をつり上げる。

「すまんなぁ、みつるー。ホントはこんなことしたくはないんだが、俺ってば操られちゃってるからなあ~」

それにしてもこの御人、本当に楽しそうである。
鶴屋さんと他二名はジリジリとミツルの方へと近寄っていく。
その背後ではユウキがくるくるとステッキを回している。
おそらくそこから、彼らを操る怪しげな電波なり何なりを発しているのであろう。

「覚悟しな、ミツル~!」
「ひええっ」

操られているだけの一般人を相手にして例のミツルビームとやらを使うわけにはいかないらしく、ミツルはあっという間に三人に取り囲まれてしまい、そのまま緑色に濁った池へと投げ込まれてしまった。
その時に鶴屋さん他二名の他二名の方の片っ方、いかにもやる気のなさそうな顔をした女が一緒に池に落っこちてしまったが……まぁ、それはどうでもいい。
どんくさいやつだな、と思って、それだけさ。
華の女子高生が苔で濁りきった池にハマってドロドロになってしまったことには、同じ女として同情してやらんところがないわけでもないがね。

とにかく大変なのはミツルの方である。
ミツルはばしゃばしゃと盛大に水しぶきをあげながら溺れていた。
泳ぐことができないのか、驚きや水の冷たさのあまり泳ぎ方を忘れてしまったのかは分からないが、とにかくピンチである。
するとそんなミツルに手を差し伸べる救世主の姿があった。

「つかまってください!」

古泉イツキである。
一体いつからそこにいたのか、あまりにも唐突に登場したイツキであったが、今はとにかくミツルが溺れそうなので構っている場合ではない。
そういえばミツルといっしょに汚水に没した哀れな女をはじめ、ユウキたちの姿がいつの間にか消えている。
イツキの姿を認めて、あっさりどっかへ行ってしまったらしい。
ユウキよ、むしろ今こそ狙っていたイツキを手に入れる場面ではないのだろうか……?

イツキの助けにより、なんとか池から這い上がったミツルであったが、体力を消耗したのか、ぐったりとして動く様子がない。

その様子を確認したイツキは、ミツルを抱き上げる。軽々と。
そうしてそのまま、ミツルをどこかへと連れていってしまうのであった。
どこへ?



(続)
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