夜空の日記
『夜空の日記』といっても天体観測をする日記ではありません。 漫画や小説(ラノベ)やアニメについて色々書いたり書かなかったり。
朝比奈ミツルの冒険 Episode 00(2)
(続)



彼女の自宅であった。
イツキの自宅はとてつもなく広くて優美な日本家屋であった。
まったくそうは見えないながらも生物学上は男に分類されるはずのミツルをお姫様だっこしているイツキが、畳敷きの一室に入ってきた。
なぜかその部屋には既に布団が一式敷かれており、更に不可解なことにミツルはどう見ても風呂上がりにしか見えない、ロングTシャツ一枚という格好であった。
ミツルは相変わらず気絶したままであり、ということは誰が彼を風呂に入れたんだ、というところにまで話は発展する。
もしもイツキがミツルの服を脱がして風呂に入れたんだとしたら、あたしはキレるぞ。
男子の裸を女子が見たからって目くじら立てて怒るなと言われたって、どだい許せないね。
ミツルはそんじょそこらの男とは訳が違うんだよ、訳が。
あたしに賛同してくれる女子は、学校の半分くらいはいてくれるんじゃないかと確信しているね。
何なら男子の一部にも賛同が得られるのではないか、とすら思っているよ。
とにかくこの問題については、これだけでかい家ならばお手伝いさんの一人くらいいてもおかしくないだろうから、その人にやってもらったのだと思い込むことにするよ。
もちろん枯れた婆さん限定だがね。
ミツルの素肌は、四十代までの女性を十分惑わせるだけの威力を持っているからな。

とにかくどのような経緯か入浴を済ませたミツルを布団に寝かせたイツキだったが、なかなかその場を離れようとせず、むしろ枕元に腰を据えてしまった。
それだけならまだしも、何を思ったかゆっくりとミツルの顔へと近づいていくではないか。
おい、こら、イツキ!
気絶した美少年を自宅に連れ込むばかりか、挙げ句のその行為はどういう了見だ、しばきたおすぞ!

しかしあたしが乱入していきイツキをはったおすまでもなく、別の人物からの制止がかかった。

「待て」

長門ユウキだった。
ユウキは窓の縁に足をかけて、今まさに室内に入り込むところだった。
そういえば言い忘れていたが、ここは二階である。
一体どうやって、ここまでたどり着いたのだろうかね。
ユウキは室内に入ると、眠っているミツルを挟んでイツキと対峙する。
二階にある自宅の窓から黒装束の怪しげな男が入り込んできて悲鳴ひとつあげないイツキは大したモンだとは思ったが、よく考えたらこいつは気絶した童顔美少年を自宅に勝手に連れ込む女だったか。
プライベートという観念が、著しく欠けているのかもしれんね。

とにかく不法侵入というものを一切気にしない同士の会話は、ユウキの方から始められた。

「君はその少女を選ぶべきではない。君の能力の有効性は私と共にあって初めて成り立つものである」
「えっ、それはどういうことですか?」
「今はまだ言えない」

監督兼脚本家がまだ考えてないだけだろう。

「しかしいずれ理解を得ることもあるだろう。君の選択肢は二つある。私に協力し、宇宙をあるべき姿へと成長させるか。彼に協力し、未来の可能性を摘み取るか」
「なるほど。どっちにしても彼女……いやこのシーンでは私ですが、私が鍵となっているのですね。そして鍵そのものには効力はなく、それと合致する……言うなれば扉のようなものと合わさることによって、初めて意味を持つと。そしてその結果、生まれる変化というものは……」

そこで一度区切ると、イツキはカメラ目線で何か含みを持たせた表情を浮かべた。こっち見んな。

「……とにかくユウキさん。しかし今のところ私には決定権がありません。保留、ということで如何ですか? どちらにせよ私には考える時間が必要なんですよ。あなた方が今この場で全てを語ってくださるのなら、話はまた別なのでしょうが?」
「その時は遠からず来るだろう。しかし今ではない」

会話を終えたらしきイツキとユウキは、しばし無言で見つめあっていた。
が、やがてユウキは身を翻すと、来たときと同じように窓を乗り越えて外へと出ていってしまった。
今さらだが、あの宇宙人はしっかりと靴を脱いでいたことを思い出した。しっかり日本家屋での常識を理解しているらしい。変なところで律儀なもんだね。

さて、そんな場面もゆっくりと暗転し、主演男優二人によるCM第二団・ヤマツチモデルショップのCMへと突入していく。
目が覚めたら自分が守るべき相手の自宅に連れ込まれ、挙げ句風呂にまで入れられていたと知ったミツルは、果たしてどんなリアクションを見せるのだろうかね。



CM明け。
CMの間にいったい何があったというのだろうか。
これまで似非SFのような世界観での似非バトルアクションストーリーだったこの作品だが、急に方向転換を行い、ラブコメ作品へと変貌を遂げていた。
いったいどうしてそうなったのか問い詰めたくなるくらい唐突にミツルはイツキの家に居候することとなり、そこからは見るも恥ずかしく演じるも恥ずかしいダダ甘なラブコメが展開されていった。
それはまるで新婚夫婦のような日常であり……まぁ、性別が逆なような気もするが、とにかくふとした拍子に正気に帰ると両手で顔を覆ってわーわー言いながら床を転げ回るくらいにはこっぱずかしいストーリーが画面上では展開されている。
正直、イツキがものすごく羨ましい。

それからどうやらイツキには弟がいたらしく、二人の疑似新婚生活には、小学校五年生の男の子がふらふらと紛れ込んでいる。
出す意味が分からん。連れてこいと言うから連れてきたのに、上手いこと弟を絡めたエピソードが思い付かなかったんだろう。大した監督様ですこと。



そんな話が前に進んでいるようで進んでいないダダ甘なラブコメを続けていた二人だったが、すぐに再び物語が動き出すこととなる。

ユウキがイツキの通う高校に、転入してきたのだ。
いつもの魔法を使う宇宙人キャラはどこに捨ててきたのか、今度はイツキに好意を猛アピールをする男に成り下がっていた。
そうして見るとただのナンパ野郎だが、フラリとイツキの前に現れたかと思えば、歯の浮くような台詞をボソボソと無感情に口にしたあと、来たときと同じようにフラリと去っていく。
しかもそれに対するイツキのリアクションが、「まあ!」の一言なもんだから、見ているこっちはたまったもんじゃない。
ここまで宝塚女優ばりの演技を見せていた古泉だったのだが……こっち方面の演技はからっきしなんだな。

そんなユウキの行動に対するミツルの対応は早かった。
相手がそういう手段に出てくるならと、ミツルもイツキの高校に転入してきたのだ。

……女子生徒として。

おいおい、それはどういう了見だと思いながらも、イツキの通う高校の女子制服に袖を通しているミツルは、とてつもなく似合っていて恐ろしいまでにかわいかった。
まぁ、この件に関しては、ミツルの着ている制服があたしの予備制服だという点まで含めて、グッジョブとしか言いようがない。
本当に、妹にしたいです。男だし、年上なんだけど。

そこから先は未来やら宇宙やら超能力やらの要素の一切消え失せた、学園ラブコメになってしまった。
しかし普通の女子高生イツキに、転入してきた男子高校生ユウキまではまだ分かるんだが、転入してきた女装男子高校生ミツルの存在が圧倒的に話をややこしくしている。
おまけにそんなミツルがイツキに迫るシーンなんて……どんな反応をしたらいいのさ?



そんな日常ラブコメ路線に落ち着いたのかと思った頃になって、思い出したように再び本来のバトルアクションストーリーの性分を取り戻す。
ミツルは戦うウエイトレスとなり、ユウキは魔法を使う宇宙人となり、あっちこっちで小競り合いを起こすのだ。
もう撮影の疲れが心身ともに出始めているのか、ミツルのアクションも始めの頃に比べると元気がない。



手当たり次第思い付いたシーンを繋げてみました感丸出しのこの作品だが、映画である以上はオチをつけなければならない。
上映時間のことなどハナから考えていなかったことであろうが、一応上映時期は決まっていたために、それまでには撮影を全て終えなければならない。
したがって、映画の公開日、つまり文化祭が迫ってこなければいつまでもカメラを回し続けていたことだろうこの作品にも、いよいよラストシーンが近づいてきたのだった。

ある日ユウキは、「決着をつけよう」とだけ書かれた神を自分の下駄箱で発見する。
なぜ今までのらりくらりとやってきたユウキが、急に決着をつけようという気になったのかはまるで分からない。
ユウキからの手紙を読んだミツルは、何かを決意した表情を見せた。

「おー、ミツル。どうしたんだ、難しい顔をして?」

そう言って近づいてきたのは、ミツルの親友である鶴屋さんだった。
女装はしているものの自らは男であるというアイデンティティーは捨てていないらしきミツルは、鶴屋さんと仲良く過ごしていたようだ。
ところでこの鶴屋さんは、序盤でユウキに操られいた時には、もう知り合いだったわけだよな?
でも、ミツルがこの学校に転入してくるのは、その後の話になるわけだろう?
時系列がめちゃめちゃじゃないか?
しかし画面上の鶴屋さんは、そんな些細なことなど気にしないとばかりに豪快に笑っていたので、この人の笑顔に免じて目を瞑ってやることにした。



(続)
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