夜空の日記
『夜空の日記』といっても天体観測をする日記ではありません。 漫画や小説(ラノベ)やアニメについて色々書いたり書かなかったり。
朝比奈ミツルの冒険 Episode00(3)
(続)



最終決戦の場は、校舎の屋上となった。

これで見納めとなる黒マントに黒シルクハット、右手にはステッキを持ったユウキが、屋上の中央に屹立している。
肩にはいつぞやの三毛猫が乗っていた。
数十秒ほど猫しか動かない画が続いた後に、屋上へと出るための扉が開かれ、戦うウエイトレス姿のミツルが現れた。

「ま……待ちましたか?」
「待った」

確かに待たされた。
待ち時間の大半は、ミツルのウエイトレスコスチュームへの変身時間だ。
女子の着替えが長いのは女子が悪いんじゃなくて、女子が着ている服が悪いんだな。あたしは女子の中でも着替えが早い方だけどさ。

「では、決着をつけよう。朝比奈ミツル。古泉イツキの能力を手にするのは私だ」
「させません! 戦うウエイトレスとして、ぼ、僕はイツキさんを守りまぁす!」

そんなミツルの言葉をきっかけにして、二人は同時に動き出す。
いくらなんでもそりゃあないだろうというくらいにヘロヘロなアクションシーンをミツルがこなすが、ユウキはステッキを軽く動かすだけで全ての攻撃を往なしてしまう。
挙げ句の果てにはミツルは爆竹やらドラゴン花火を用いて、ズバババンと派手な音を鳴らすも、ダメージらしきものはまったく与えられていなかった。
しかもその爆発音を聞き咎めた教員たちが屋上に駆けつけてきて、あたしらはめっちゃ叱られてしまったのだが……編集の際にカットしたので視聴者の知るところではない。

そんなこんなでやっぱり窮地に追い詰められてしまうミツルである。
そういえばここまでミツルが優位に立ったことが、一度もないな。

「呆気なかったな。最後はせめて苦しまぬように逝かせてやる。では、さらばだ」

呆気なかったなという言葉には同意するが、そうなると今日のこの日まで戦いの決着を延ばしまくったユウキの行動はますます意味不明になってくるね。
ユウキはすいっとステッキを持ち上げると、そこから安いSEと共に可視光線がミツルを襲う。
それが当たるとどうなるのかという説明はないし、直撃している屋上も無傷ではあるのだが、ミツルが必死に逃げ惑っている以上、人体に何らかの深刻な悪影響をもたらすに違いない。

「ひええ、ひょええ」

と逃げ惑う情けないヒロイン、いやヒーローであったが、このまま負けてしまっては後味が悪い。
ということで待っていたわけではないが、お待ちかねとしか言いようがない、物語の軸となる最後の人物の登場である。

「大丈夫ですか、朝比奈さん」

ミツルを守るように両手を広げて、ヒーロー、いや、ヒロインのイツキが二人の間に割って入っていた。
なぜここにいるのかというと……好意的に解釈するなら、爆竹の音を聞いてやってきた、とかじゃないのかしらね。

「彼を傷付けることは、私が許しません。ユウキさん、どうか手を引いてください」

紆余曲折の末に、イツキはミツルを選んだのだ。
そのことに関して少なからずショックを受けているのかいないのか、ユウキはしばし黙り込む。
が、そのわずかな無言の瞬間に入り込むように声をあげたやつがいた。

「考えることはないわ。この可愛らしいお嬢さんの意思を奪ってしまえばいいじゃないの。聞いたところでは、アナタにはそういう人間操作能力があるらしいじゃない。まずお嬢さんを操り人形にして安全地帯に導いたのち、あの可愛らしいウエイトレスの坊やを倒せばいい話よ」

三毛猫のシャミセンがしゃべっていた。
バカ野郎、あれほどしゃべるなと言っておいたのに! 今晩は猫缶抜きだ!

「わかった」

ユウキはうなずくとステッキを持ち上げて、シャミセンの頭をぺちんと叩いた。
にゃぅ、と不機嫌そうな声をもらすシャミセン。
それからユウキは、

「今のは腹話術」

と言い訳した。
改めてステッキを構え、イツキに向けるユウキ。

「これをくらい、私の傀儡となるがいい。古泉イツキ」

するとその瞬間、やけにジャストすぎるタイミングで、イツキの超能力が発動した。
イツキの全身は赤く光り輝き、どういう原理かユウキとシャミセンを吹き飛ばしてしまった。
……いやいやちょっと待て。イツキの能力は鍵に過ぎず、それ単体には能力が無いって話じゃなかったのか。

「……無念」
「にゃあ」

そんなあまりにもあっけない断末魔を残して、ユウキとシャミセンは宇宙の彼方へと消えていってしまった。
願わくは、彼らがもう二度とこんな忙しいだけで実のない事態に巻き込まれんことを。

ユウキたちが消えたことを確認さたイツキは、背後でしりもちをついていたミツルに手を差し伸べる。

「終わりましたよ、朝比奈さん」



ラストシーンは、満開の桜並木を仲睦まじく並んで歩くミツルとイツキの画だった。
このシーン、撮影時期は秋だと言って、果たして何人が信じてくれるかね。
イツキはミツルの頭に乗っていた桜の花びらを手に取り、彼に見せる。
するとミツルは恥ずかしそうにうつむいてから、はにかんだ笑顔を見せてくれたのだった。

この最後のミツルの笑顔を見るためだけに、ただひたすら長いだけで1ミクロンもおもしろくない映画を観てきたと言っても過言ではないね。

しかしそんな素晴らしき笑顔の余韻に浸る暇も与えられない。
すぐに画面は暗転し、ジャンジャカジャンジャカうるさいBGMとともにスタッフロールが流れ始めた。
最後の最後には別撮りしたナレーションが入る。
『この物語はフィクションです』っていう、お馴染みのアレさ。
こうしてSOS団プレゼンツ『朝比奈ミツルの冒険 Episode00』は無事にエンディングを迎えたのだった……。



☆☆☆



「……」

あきれて言葉も出ない。
あたしら試写会参加者は一様に「こんなもんを本当に衆目に晒すと言うのか?」以外の感想しか持っておらず、したがって誰もがだんまりを決め込んでいる。
朝比奈さんはおどおどと今にも泣き出しそうな表情だし、さしもの古泉も困ったような笑顔を浮かべていた。長門は興味が無いのか、ひたすらに無表情だ。

そんな中、勢いよく立ち上がり、大声を張り上げる男がいた。

「できたぞ! すげえ出来じゃねえか! SOS団の辞書に不可能の文字はねえんだ!」

今の映画モドキを観て、どこに喜ぶ要素があったというのだろうか。
とにかく今回の映画の制作指揮者・涼宮ハルヒコはこの映画の出来にご満悦らしく、やたらテンション高く「金が取れるぞ金が!」とわめいていた。取れるか、バカ。

……今日は文化祭のことは忘れて、どっかで寝てよう。
一人、そう決意したあたしの方を向いて、何やら今まで演説を垂れていたらしきハルヒコは、この世に不安なことなど何一つ無いという五歳児のような笑顔を見せて言った。

「なっ! キョン!」

……まぁ、あんたが楽しそうで何よりだよ。
あたしはそんな意味を込めて、「ああ」とうなずいたのだった。



(終)



☆☆☆



(あとがき)



涼宮ハルヒの性転換シリーズをご存知だろうか。
あれは「涼宮ハルヒの驚愕」の発売延期から一年か二年か経った頃だったか。
突如としてネット上に、「涼宮ハルヒの憂鬱」キャラクターを性転換してしまう活動が流行った。
キョンはポニーテールのよくにあるダルデレ娘・キョン子に。
ハルヒはやんちゃな迷惑暴走男・涼宮ハルヒコに。
長門は冷静沈着なクールボーイ・長門ゆうきに。
みくるは女装やコスプレのよく似合う童顔美少年・朝比奈ミツルに。
古泉は不敵な笑みを浮かべる美女・古泉一姫に。
それぞれ変貌を遂げたのである。

この作品「朝比奈ミツルの冒険 Episode00」は、「朝比奈みくるの冒険 Episode00」を元にして、全キャラ性転換を行なった実験企画である。
本当はもう少しオリジナリティーあふれるアレンジを加えられれば良かったのだが……まぁ、こんなもんだろう。
物語の後半は慣れてきたのか、小さなアレンジをいくつも加えてみた。

性転換キャラクターで一番おもしろかったのは、ぶっちゃけシャミセンだった。
「溜息」でしか喋らないとか、勿体なさすぎる。
しかしシャミセンの女体化には問題もあるのである。だってほら、シャミセンって、オスの三毛猫だからこそ価値があった……と言うと語弊があるが、つまりはそういうわけじゃない。



今後ハルヒの別シリーズを取り上げていくかどうかは、分からない。
案外面倒だったからこれで終わりかもしれないし、案外楽しかったからまた続けるかもしれない。

まぁ、もしまた「涼宮ハルヒコの憂鬱」が書かれたならば。
今度はもうちょい、「性転換」ありきの展開も入れていきたいな、と。
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