夜空の日記
『夜空の日記』といっても天体観測をする日記ではありません。 漫画や小説(ラノベ)やアニメについて色々書いたり書かなかったり。
もしも長文キャラが学園ラノベになったら(3)
 学園には校舎と併設する形で、図書館も敷地内に用意されている。建物自体あまり大きいとはいえず、蔵書数も少なめだ。しかし司書教諭の妙にマニアックな趣味が蔵書のラインナップに反映されているためか、それを目当てにしたファンが決して少なくない数いるのも確かであった。
 そんな図書館の閲覧コーナーで、黙々と読書に勤しむ少女の姿があった。
 三田夏奈。それが彼女の名前だった。所属は2年7組。
 図書委員として貸し出しコーナーに詰めている花笠は、自身が図書館に来るたびに、いつもまったく同じ座席を陣取っている彼女のことが気になっていた。
 彼女達の通うこの学園では、常に何らかの部活動、あるいは委員会に所属することを義務付けられている。一条のように部活動に精を出す者もあれば、花笠のように特にやりたいことが見つからずに適当な委員会に収まってしまう場合もある。
 もちろん途中での退部や入部は自由であるのだが、それでも一定期間『無所属』でいると、学校側はあまりいい顔をしない。であるため、あの三田という少女――この時点では花笠は三田の名を知らないのだが――が無所属である可能性は低い。何らかの部活動あるいは委員会に所属していれば、毎日のように放課後に図書館に顔を出せることは、おそらく無い。
 ――となると一番可能性が高いのは、やはりサボタージュ……。
 花笠は、新刊図書の『和菓子のアン』を読むふりをして(図書委員会の役得として、図書館に入った新刊は一般生徒たちよりも先に予約し、読むことができる……というものがある)、そっと件のサボタージュ少女を見やる。
 見た目には真面目な少女であると言っても良さそうだ。ショートカットの髪は一度も染めたことのなさそうな真っ黒で、顔にも化粧の類いは感じられない。
 切れ長の瞳は下方の図書の文面を追っているのか、一定のリズムで揺れ動く。つんとした鼻、そしてよほど読書にのめりこんでいるのか、トッポ二つ分ほど開いたままの唇。
 制服にも改造した様子はなく、スカートも規定の長さだ。他の女子生徒がやっているからと、ちょっとスカートの長さを詰めてしまっている花笠は、それを見て多少後ろ暗い気持ちになった。
 ――おそらく部活動をサボタージュしてまで、あの人は一体何を読んでいるのだろうか。
 花笠がそんなことを考えていると、学内にチャイムが鳴り響いた。下校時刻が近いことを知らせるチャイムだ。
 このチャイムが鳴ると、図書館内はやにわに慌ただしくなる。それまで静かに読書や勉強に勤しんでいた生徒たちが、帰宅の準備を始めるからだ。
 花笠が先ほどまで見つめていた少女も同様で、荷物をまとめると席を立つ。すると彼女は出入口には向かわずに、真っ直ぐに花笠の元へとやって来た。
 花笠は狼狽えることはない。自らの役割を考えれば、彼女が歩み寄ってきた理由も自ずとわかる。
 彼女は先ほどまで読んでいたのであろう文庫本を差し出してきた。
「これ。貸し出しお願いします」
 意識し始めてからは初めて聴く、彼女の声だった。低く落ち着いた声で、聴く者の心を穏やかにさせるような声だった。
「あ、ああ。ちょっと待ってくれるか」
 花笠は貸し出し用のバーコード読み取り機を手繰り寄せると、手渡された文庫本の背中にくっついたバーコードをピッと読み取った。
 ――これが、あの人の読んでいた本か。
 花笠が業務に就いている日に彼女が貸し出しに来たのは、これが初めてだった。花笠はこれをチャンスだと思った。
 ――何の本を読んでいたのか。確かめるなら、今しかない。
 花笠は手にしていた文庫本を、出来る限りの自然さを装って(自然さを装っている時点で、ある程度不自然である)ひっくり返した。
 それは甘酸っぱい恋の物語だろうか。それとも、浪漫溢れる歴史小説だろうか……。

 文庫版『サザエさん』だった。

 28巻だった。
 日曜夕方でおなじみの、国民的海鮮家族だった。
「……『サザエさん』かいっ!」
 思わず声に出してツッコミをしてしまった。
 貸し出しに来た三田も、28巻の表紙のサザエさんも、ツッコまれる謂れは無いと言わんばかりな表情だった。

(おしまい)
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