夜空の日記
『夜空の日記』といっても天体観測をする日記ではありません。 漫画や小説(ラノベ)やアニメについて色々書いたり書かなかったり。
フォリナー×パニック #22
#22/“その日の深夜”死にたがりの道化 ~道化はピエロと読め~

4月26日という日付が、もうすぐ4月27日になろうかというような深夜の時間。

もう既に学校内ではほとんどの人間は帰宅しており、今は宿直の先生以外は誰も残っていない。
そんなほとんど闇に包まれた学校の校舎の屋上に、一人の男子生徒が柵の向こう側に出て、腰をおろしていた。
今日の夕方に、この場所で、彼は同じクラスの女性とから告白を受けていた。

結果としては、彼女・藤咲栞が野球部のマネージャーとなり、彼・花菱塁と友情と共に愛情を育ませるという形に落ち着いた。
お節介焼きな楓がそんな中途半端な結果で満足しているかどうかは知らないが、そこは巧がなんとかしておくだろう。

塁は夜の優しい風を全身にそよがせながら、真っ暗な中にポツポツと光る民家の灯りを見つめていた。
背には柵があるが、前には何もない。
下を覗けば、そこはアスファルト整備された歩道がある。
グラウンドには、数メートルほど助走をつけてジャンプしないと、届きそうにない。
この校舎は三階建てだ。
落ちれば全身打撲で、高確率でこの世から引退せざるを得ないだろう。

しかし彼には恐怖が微々として無かった。
別に落ちても構わない、とさえ感じていた。



「夜風に当たるには、少々まだ肌寒い季節デスネ」

不意に塁の背後から声がする。
女性の声だった。
塁は驚きはせず、後ろを振り向いた。

彼と柵を隔てて反対側。
屋上への入口の傍に、その人物は立っていた。

「こんばんは、デスヨ」

「……忍」

そこに立っていたのは、いつもの制服ではなく、私服を着用している、美しく艶やかな髪を腰まで揺らした女――いや、女装した男だった。
顔には微笑みを湛えている。
彼は左右の形違いの肩飾りフレアが付いた、サーモンピンクのブラウスを着ていた。
胸元にある二つの膨らみは、一体何なんだろう、マジか? と塁は考える。
下は膝丈くらいの黒のデニムスカートで、ポケットの口の周囲にはハトメリングが等間隔で付いている。
靴はブラウンのローファー、首元にはペンダント、よく見れば顔に薄く化粧まで。

「残念デスヨ。この口調のせいで、貴方に名を言われる前に読者にその正体がバレバレだったデスヨ」

「……何を言っている?」

「独り言デスヨ」

ブツブツ言いながらスカートを弄ぶ忍。
仕草と表情、声、見た目はほぼ100%女性であり、中身も95%ほどは女性だろう。
ただ一点だけ、どうしても乗り越えられない壁があるのだが。
さすがにまだ学生であり、アメリカへ渡ってチャッチャと正式に性転換、なんてのは無理なんだろうな、と塁は解釈していた。

「塁さん、そんなトコに居ては危ないデスヨ?」

忍が妙に妖しい笑顔で、塁に言った。
だが、塁は気にしない。
怖がる様子も無く、遥か下方のアスファルトの地を見つめた。

「あぁ、もしかして貴方、現実から逃げたいとかいうクチなのデスカ?」

「…………」

何も答えない。

「いいんですか?彼女、栞さん、デスカ?」

「……見てたのか?」

塁は、忍の方も見ずに言った。

「ええ、まぁ、そうデスネ」

「それなら分かるだろう。 僕は他人の深い部分、醜い部分や恥ずるべき部分を見たくはないんだ」

「それ以外にもあるのではないデスカ?貴方が彼女をフッた理由デスカ」

忍がそう言った瞬間、塁は驚いたように目を見開き、彼の方を見る。
そしてすぐに冷めた眼に戻った。

「……知ってるのか?」

「何のことデスカ?分かりませんデスネ」

分からないと言いつつも、彼の眼はいやらしく笑っている。
まるで全てを知っているようだ。
知っているのに、あえて自分の口から言わせようとしている。
好きになれそうに無い奴だ、と塁は思った。

「まぁ良い。 知りたいなら教えてやらんでもないさ」

そう言うと塁は、その場で立ち上がり、忍の方を向く。

「どうせ知っているのだろうが、僕の口から聞きたいのならそうしてやる。 僕は――」

塁が、そこまでを口にした時。
不意に彼の体が、物凄い勢いで地面に引かれた。

塁は屋上の縁から、足を踏み外してしまったのだ。
彼は自らの状況に気付くよりも前に、その音を聞く事となる。





――――ドシャッ。 ビチャ、ビチャビチャ……。





冷たく硬い地面に全身が激突し粉砕、四肢が四方に飛び散る音。

塁が落下した地点には、凄惨な現状が広がっていた。
そこにいくつも転がる人間の残骸は、もはや人の姿をしておらずに、ただひたすらに黒っぽい赤色の、妖艶な美しさのある色を保っていた。
いくつもの白い棒状の物も転がっており、近くに球状の小さな軟らかい物体も二つ転がっていた。
近くにあった植え込みの植物にも、赤黒い妖しい美しさのある色をかけていた。

屋上の忍は、彼が墜ちた音を耳にすると、くるりと踵を返して、屋上を出て行った。



屋上を出て一階に降り、忍は塁――かつて塁だった残骸――にチラリと眼を向ける。
そこには赤黒い何か、月光に照らされた赤黒い何かが散らばっている。
忍の足元にも、かつての塁の左手が飛んできていた。

「お加減はいかがデスカ?」

と、忍がその左手に向かって言う。
すると、左手の人差し指が、ピクリと動いた。

校舎に隣接する植え込みから、ガサゴソと何かが動き、葉や枝が揺れる音がする。

ゴソリ、と音がする。

植え込みから、塁の左脚と、肝臓が這うように出てきた。
それと同様に周囲に四散していた顔面、右手、右脚、内臓各種、胴体などが這って来て、一箇所に集まってきてる。
小腸が蠢いている姿は、新種の蛇か何かと見紛う。
見れば血液も同様に、肉体と同じ場所に集まってきていた。

そして忍の見ている前で、その形を、かつての塁の形に再形成する。
胴体の腹部に縦に裂けている部位から、内臓が侵入していく。
そして引きちぎれたはずの腕や脚が、元々の部分と接合する。

そして数秒の時を経て、その場には全裸の塁が、再びかつての姿を取り戻して座っていた。

傍らで一部始終を観察していた忍が、感嘆の声をあげ、拍手をする。

「Bravo。なかなかに素晴らしい芸デスネ」

「……芸じゃない」

と、塁はそっぽを向いた。

「凄い能力ですね。《不死人(アーザール)》デスカ?もしかして塁さん、同性愛者デスカ?」

「何だそれは?意味が分からんな。 同性愛者はお前だろう?」

「失敬、伝わらなかったなら良いんです。それと私は、同性愛者ではないデスヨ」

そうだったのか? と、塁は思った。
単なる女装好きだったか。

「両刀デス」

塁は、聞きたくなかったとばかりに首を振った。

「ですが貴方の能力は、本当に不思議なものデスネ」

「不思議だろうが何だろうが、厄介ものには変わりない」

「死ねないからデスカ?」

「…………」



塁は、人間で地球人ある。
宇宙人でハルフルート星人で、その上両刀の女装した男の子の忍と比べれば、それはどう考えても普通の存在だ。
ただ一つ、花菱塁というこの少年には、ある能力が備わっていた。

その能力こそが、「不死の力」。

先程のように高所から転落しても、不治の病にかかろうとも、深海の底に潜っても、スペースシャトルで宇宙に放り出されてそのまま放置されても、絶対に死なない。
彼がこの能力を説明するときには「絶対に死ねない」と評することが多いが、それに関しては大きな問題ではない。

今から数年ほど前のある日、塁はある心の病気に陥った。
「人間不信」。
他人との深い交流を極端に嫌がり、誰をも信じることが出来なくなっていた。
今でこそ症状は治まりつつあるが、当時は本当に深刻な問題で、彼は自殺をしてしまったのだ。

……しかし彼は死ねなかった。
両親と妹の外出中、自宅の風呂場を密封してから、「混ぜるな危険」と書かれた洗剤を二種類ブレンドした。
そうすると毒ガスが発生し、死に陥るという知識を彼は持っていたのだ。
しかし彼は、一向に死ななかった。
数時間毒ガスの充満した風呂場で立ち尽くしており、帰宅してきた両親に発見され、救助された。
「自殺未遂」ということとなった。

それからしばらくして、彼の元に二人の黒いスーツを着込んだ男性が訪れた。

彼らは「超常能力研究所職員」と名乗り、塁に名刺を渡した。
そして塁は知ることとなる。
自分が「不死の能力」を持っている、という事実を。



地球上には、何の間違いか、普通の人間の持っていない能力を持つ人間が、時々降り立つという。

塁はそんな特殊な人間のうちの一人で、生まれつき「不死の能力」を持っていた。
当時から、特殊な能力を持つ者たちはどんな形にしろ、国家に影響を及ぼすと考えられていた。
その為、特殊な能力を持つ者たちは「特殊人」と呼ばれ、場合によっては世界から削除され、場合によっては世界から切り離され、場合によっては放置される。

それまでの研究から、特殊人にはそれ相応の特殊なオーラが発せられるということが分かっている。
つまり、この世に生を受けた瞬間に、国家が機密に発明した機械により、特殊人は居場所とその能力を特定され、その上でその特殊人の扱いをどうするかを検討する。

例えば「自爆の能力」や「操作の能力」等の能力を持つ者たちは、この世に生を受けてすぐに世界から削除、つまり殺される。
自爆の能力は国を巻き添えに大爆発してしまうかもしれないし、操作の能力は他人を操り悪用する可能性があるからだ。

例えば「復活の能力」や「飛翔の能力」等の能力を持つ者たちは、この世に生を受けてすぐに世界から切り離される、つまり牢に監禁及び軟禁させられる。
復活の能力は死者を次々復活させ混乱に陥るかもしれないし、飛翔の能力は制空権を取られると危険だからだ。

例えば「不死の能力」や「透視の能力」等の能力を持つ者たちは、この世に生を受けても特に国家からの接触は無い。
不死の能力は死なないだけだし、透視の能力は物質をすかして見る事ができるだけだからだ。
ただし、そのような能力を持つ者たちが、自らの持つ能力について気付いた場合は、別だ。
自らの能力の存在について気付いた場合は、その行動が制限させられる。

まず、他人に能力について言わないこと。
それは当たり前である。
機密保持のためだ。

次に、あまり能力を使わないこと。
能力を頻繁に使われると、能力の存在が世間に知れ渡る可能性がある。
あくまでこの特殊人の存在は、国家機密級の情報、一般人に知れてはならない。

そして、他人との接触をなるべく控えなければならないということ。
他人と触れ合う事で、その人物に自らの能力の存在がバレてしまう可能性があるからだ。
以前に、愛する恋人が傷ついたとして、自らの能力の「治癒の能力」を使用してしまった輩が居た。
その人物は即刻牢に監禁させられ、その恋人にも厳重な口封じが架せられたという。
それに、超能力を持つ者が子孫を作ると、その子にも超能力が遺伝する可能性があるということでもある。

この能力と言うのが本当に厄介なもので、超能力は時間がたてば消える場合と、死ぬまで消えない場合があるようだ。
監禁及び軟禁されていた元特殊人は、即刻解放される。
一般人として生活していた元特殊人も、特殊人に対する様々な枷を外されるのだ。

塁はまだ、その能力の枷を外す事は出来ない。
しかしそれは、彼にとっては良いことなのかもしれない。
能力に気付いた当時とは違い、今では安定しているものの、今でも彼の心情は不安定だ。
今は能力のおかげで自殺しても生き返るが、その能力が消えた場合、どうなったものか分からない。
だから今の彼に必要なことは、能力があるうちの、心の回復。
その為には、塁には栞が必要なのかもしれない……。
必要以上の接触が、禁止されている身ながら……。



「まったくもって不思議な能力デスネ。私もとっても興味があるデスヨ」

「そうかい、そりゃ良かったな」

そう言うと塁は、はるか上空に瞬く星を見た。

「まったく……厄介な能力だな」




「……塁さん」

「何だ」

「いつまで女の子の前で、裸を晒している気デスカ……」

「…………顔を赤らめるな」

「お前は女じゃねぇ」というツッコミを封印しつつ、塁は落下したときにどこかへ飛んでいってしまった服を、一枚一枚探さなければならなくなった。
早く見つけないと、風邪を引いてしまう。
不死だから死なないが、死ぬ直前まではその効力が発動しないのだ……。

プロローグ
#1/全てはこの桜の舞う日に
#2/こんな扉だったのなら、いっそ開かなければ良かった
#3/地球星第一等調査員と一般人
#4/金澤巧と赤城楓は紅茶に砂糖を入れない派、美浜愛華は紅茶に砂糖を入れる派
#5/何時如何なる時に何があるかは分からない、だから念の為に身分証明書と印鑑は持ち歩いておこう
#6/世界三大美女に日本人が入っている時点で既におかしい
#7/守って!乙女の秘密! 打ち破れ!痴漢の奇行!
#8/部活動紹介 ~輝け!それぞれの道~
#9/どこの学校でも、何かしら強い部活動はある
#10/人は見掛けによらぬもの
#11/ティータイムはエレガントかつエクセントリックかつエキサイティングかつエレファントかつファンタスティックかつブラボーかつデストローイな感じで
#12/適当万歳!そつ無くこなせば人生は生きて行ける
#13/それを部室と認識するには
#14/File.001 人面犬って中年男性の顔が多い気がするけど、若い美女の顔の人面犬が居たら、それはそれで怖いと思う
#15/File.001 人面犬をオークションに出したら、いくらくらいで売れるんだろうね
#16/成績上がるか下がるかはその生徒次第
#17/昔話を語り出すと決まって貧乏自慢ですかと言う顔をするやつ
#18/トランペット吹きの日曜
#19/ときめくメモリアル ~forever with you~
#20/ときめくメモリアル ~おしえてYour Heart~
#21/ときめくメモリアル 伝説の樹の下で
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